10. 今更タイタニック、尚更タイタニック

今更ながら我が家はタイタニックブームである。それはそうで、娘たちは21世紀生まれだから、真っ更からタイタニックのDVDを観て夢中になるのも無理はない。長女なぞ、殆ど全部のシーンを覚えてしまっている。僕は僕で、ローズの母親がジャックに対して「スティアリッジクラス」と投げかけるところが気になって仕方ない。(以前は「ラムにミートソースを・・・」が気になってしかたなかった、タイタニックの食事は別途研究の予定)というのは、英国の船には基本的にはスティアリッジクラスという等級は無いし、他の場面ではちゃんと「サードクラスパッセンジャー」と言っているからだ。スティアリッジとは船を操船する場所の意で、要は舵を動かすワイヤーなどが存在する船底を意味する。これは19世紀末のドイツ客船の専売特許で、3等の下の船倉に乗客を詰め込んだのだ。ジャックは安い切符をゲットした3等船客ではあったが、そもそも存在しないスティアリッジクラスの客ではない。ということは、わざと差別的にそのような言葉を使ったという場面にしたのではないか? 日本語と字幕ではどちらもただの「3等」としか表現されていないが・・・

あと4年もすると2012年、タイタニックは100年を迎える。親しい方にはお話しているが、僕が映画を作れる立場にあれば、作ってみたいのがタイタニック3だ。タイタニック2はパロディで出回りすぎた・・・ 僕のタイタニック3は2097年の物語で、イズメイの子孫がタイタニックの船体の一部を引き上げ、イズメイの名誉を回復するというあらすじだ。タイタニックから生還した細野晴臣さんの御祖父、細野正文氏がその名誉を回復されたのは記憶に新しいが、とにかくイズメイは映画やテレビのせいだろう、大変に悪い印象を持たれ過ぎているように思えてならない。あの究極のせっぱつまった状況で、イズメイは乗客としてではなく、船のオーナーとして最後まで乗客の救命ボートへの乗船に死力を尽くしたそうだ。無論、船のオーナーにはそんな義務はないのにである。そして死ぬまで二度と公にタイタニックのことを語らなかったが、ニューヨークの査問では、唯一度、自身の救命ボートへの乗船について「私が乗らなければ、その席は空席のまま海に降ろされた筈です」と証言している。

20世紀初頭の大西洋横断航路では、まだ船は移動手段としての色あいが強く、乗客へのサービスもあくまでトランスポート並みとして考えられていた。今日の洋上ホテル、つまりレジャーとしてのクルーズを遡ってみれば、その元祖はホワイトスターラインのサービスが元になっていると考えられる。先見の明といったことでもなかろうが、イズメイは実に卓越した人物で、3等船客に白いテーブルクロスとメニューカードを用意した初めての人間だったのだ。やがてアメリカの移民法が改正されると、もはや大西洋航路も移動よりは観光の色合いが強くなり、戦後の飛行機時代になると、洋上ホテルとしての役割は決定的になる。タイタニックの事故以降、船底深いと万が一の際に助からないためスティアリッジは禁止、移民法改正以降は3等は少なくなり、2等がツーリストクラスとして大部分を占めるようになる。この戦前の等級が、現在も伝統的に生きているのが唯一キュナードの船だけだ。客船の星、いわばミシュランの客船版であるベルリッツのレーティングではキュナードの船は等級により質が違いすぎるとのことで複数のレーティングを持っている。

まあ、今更・・・いやいや、まだまだタイタニックなのだが、今日のキュナードの社員モットーにホワイトスターサービスの名を現在に残したイズメイ、タイタニックの100周年には、正当な再評価をされるべきと僕には思えてならない(2008,12,19初稿、2015年加筆)

氷川丸の積荷【船と港のエッセイ】 CONTENT【船と港のエッセイ】 APLの客船プレジデントウィルソン【船と港のエッセイ】