07/11 幻の客船三題

地球規模で見た場合、客船の花形航路は英仏海峡とニューヨークを結んだ北大西洋横断航路であることは衆目一致である。片や我らの目前の太平洋、これはとてつもなく広い大洋で、地球の海の面積の46%を占め、地球上の全陸地面積を足しても収まってしまうほどの広さがある。米大陸の発見(実は発見発見とはいうけれど、遅くとも紀元10世紀頃にはアイスランド経由でノルマン人が現在のカナダに渡っている)や、豪大陸の発見は血の気の多い欧州人たちにとっては大いなる福音だったことだろう。アフリカの南を回って熱いインド洋経由で行く豪州よりも、大西洋横断のみで行ける北米は特に魅力的だったと見えて、ここに一際太い幹線航路が出来たわけだ。欧州から東回りで中国まで行ったとしても、北米大陸は西回り大西洋横断の方が断然便利だ。欧州からの移民たちが西海岸に達するには100年ほどはかかったし、そのころは南北問題ならぬ東西の格差が大きかったわけで、人荷の重要も自ずとあるわけで、同じ年代で比べれば大西洋航路と太平洋航路の船には大きさと速度では大きな開きが生じた。昔も今も、客船事業の純然たる利得など怪しいもので、郵便輸送を含む航路維持への補助金なしには巨大な客船など浮かべようもなかった筈だ。それでも、補助金を奮発しても国家に対するリターンは大きかったし、また一国のプレゼンスを表現するのに、軍事力と並んで余程重きをなしていたと考えられる。太平洋航路の船が二周遅れほどの規模であった反面、大西洋航路よりは健全に経営が成されていたかもしれない。CPL(カナディアンパシフィック)が太平洋航路を開設した時は、英国政府は「太平洋航路に補助金など不要」と、金を出さなかった。結局、実際にCPLが補助金なしで太平洋航路を開設して、横浜まで行くのに東回りより西回りが圧倒的に早いということが実証されてからCPLに補助金を出すことになった。つまり、経営史的側面から詳細に検証したわけではないが、大西洋航路がジャブジャブの補助金漬けであったとすれば、太平洋航路の方が質実剛健であったことがうかがわれる。機会があれば、日本郵船の財務に関する古い資料の古書なども出版されいるので研究してみたいものだ。(多分、そこまで手が回らないだろうが)

アメリカンプレジデントライン・プレジデントワシントン

PM(パシフィックメール)、Daller、APL(アメリカンプレジデントライン)の調べごとをしていて興味深い資料画を見つけた。1958年に描かれたとされる、APLの幻の新船、プレジデントワシントンのプロポーザルスケッチである。天皇陛下も乗船されたプレジデントウィルソンは、全長185mで15000トン、巡航速度は20ノットであったが、元々が第二次大戦中に建造されたP2輸送船のタービンエレクトリック型のうち、終戦で建造中止された2隻をハウス部分を作り直して乗せたという出自を持っている。1948年に就役してから10年目の1958年に、APLはようやく純貨客船を計画するに至ったというわけだ。計画では全長290mで43000トンだったそうだが、すでに米国人の太平洋横断は飛行機の利用が主流になりつつあり、需要が見込めずに計画は白紙となった。

日本郵船・橿原丸・ミスニッポン

幻の客船といえば・・・1935年(昭和10年)当時、太平洋航路で最大の客船はCPLのエンプレス・オブ・ジャパンで、全長205m・26000トン・22ノット、NYKの浅間丸は同178m・17000トン・21ノット、APLのプレジデント・クーリッジが同187m・21000トン・21ノットといったところだったが、ご存知、航空母艦隼鷹となってしまった橿原丸は、1942年に予定通り完成すれば、全長220m・27700トン・25ノット(運用速度は23ノット程度だったと推測される)という太平洋航路の主役となる筈であった。NYKには、もう一つの幻の客船計画があった。1964年の東京オリンピックに向けて、氷川丸に代わる太平洋航路の客船を建造しようというものであった。全長210m・33400トン・24ノットとされたこの仮称ミス・ニッポン(笑)は、サンフランシスコ航路へ配船するべく1957年頃から計画が始まった。APLがプレジデントワシントンを計画したのは・・・素人考えながら、どうもこのミス・ニッポンが追い付けない立派な船を造ろうという野心があったと思えて仕方ない。戦勝国のプライドだってあるだろう(笑) しかし、ミス・ニッポンの方は2隻作る計画だったそうだから、これまた周到である。どちらも完成したなら、随分と愉快な光景が見られたことと思うが、ミス・ニッポンの方も1959年の伊勢湾台風の前に建造補助金を復興予算に持って行かれてオジャンになった。その後、氷川丸が退役して日本郵船は客船事業から一旦撤退することになる。しかし、これは僥倖であったともいわれる。もしミスニッポン型2隻が完成していたら・・・日本郵船は倒産の憂き目にあったであろうとも言われている。幻の客船はキュナードのQ3やら、CGTのブリターニュやら、いずれも気が魅かれる話ばかりだ。幻は幻というだけで輝きを放つものである(2015,7,11)

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