05/05 Spagetti al KUMAMOTO

クマモトパスタ

連日、熊本の震災関連の報道が絶えない。営業マンだった頃は、売り込みやら納品で全国を飛び回ったものだが、九州は福岡・長崎の両県以外には仕事でも旅行でも行ったことがない。震災後、早い時期の報道で「農産物への影響が少なからず出る」と言っていたが、その中でトマトの生産量は熊本県が全国三位なのだと例に引いていた。

四月に入ると好物のメカブがスーパーの店頭からぱったりと姿を消す。横須賀ではワカメは二月解禁なので地物は二月からだが、東北(岩手)は一月解禁だそうで、一月の岩手産、二月・三月の横須賀産で都合三カ月、我が家の食卓に欠かせなかったメカブも四月になるとなくなる。季節が移って重要なルーティンの食材が無くなると狂いが生じるもので、秋以降、毎週恒例だったアサリと小松菜のパスタもどことなく気乗りがしない。四月の初め、そんな時に目にしたのが巨大なトマトである。そのまま食べるには気が引けるくらい大きい。ところが、このトマトを見た瞬間にひらめいた。家族一同の栄養上の観点からアサリは食べたい。アサリと巨大トマトでパスタ。

ヒントになったのは、数年目に家内が勤務先だった幼稚園で栽培していたプチトマト「アイコ」のパスタ、かつて料理人気取りでイタリア料理のパーティをやってた時の定番ブルスケッタ、それとあの山田シェフで一世を風靡したトマトの冷製パスタ・・・巨大なトマトを手に取った瞬間にこの三者が頭の中で合体した。

合体したのはいいけれど、いざ台所に向かうと難しい。一考を要したのはパスタ自身の塩気をどうするかであった。パスタの塩気を最低限にして、トマトへの下味で味を決めることとした。巨大トマトは湯剥きせず、そのまま1.5cm角くらいに切って、ボウルで塩・コショウ、ザクッと混ぜて少し水気が出たらオリーブオイルを加えて混ぜてマリネ状態にしておく。フライパンでミジン切りのニンニクを少量のオリーブオイルで香りを出す。トマトの方のオリーブオイルがメインなので、可能な限り少量で。ニンニクは通常よりも、軽めに火を通すようにする。ブルスケッタに入った生のニンニクをイメージしてやると宜しい。アサリを加えて、少量の水で口を開けさせ、殻を取り除いておく。サッパリ感を活かすなら断然白ワインより水、アクアパッツァといったところか。ここまでのフライパンの作業がこのパスタのセンシティヴなところだ。パスタが茹であがったらアサリのフライパンに投入、パンをあおりながらアサリの汁気を吸わせて、汁気が減ってパンがあおりにくくなるあたりでマリネ状のトマトを投入、強火にして熱を加えてパンをあおるとトマトの水気が出てくるので、これを少々吸わせる要領で仕上げる。皿に盛ったらバジルを散らす。

準備も手数も大したことはないが、まさに日本的な繊細さで仕上げるびっくりするような美味しさである。かれこれ30年もパスタを作ってきたが、これぞヌオーヴァ・クチーナ。それも、ヌオーヴァ・クチーナに良くあるような、見た目ばかりで味同士がそっぽを向いているようなわざとらしさもない。最初の時は、この手順を何度も反芻しながら緊張してやったので結構疲れて「二度と作らない」と言ったのだが、家内と娘たちの絶賛に押されて定番となってしまった。「二度とやらない」つもりだったので「幻のパスタ」と呼んでいたが、それもこれもあの巨大なトマトが「ヤル気」を引き出してくれたお蔭・・・そして、これが熊本産、おまけにいつも買うアサリも熊本産・・・そして震災・・・この一皿を「Spagetti al KUMAMOTO」と呼ぶことにした。

早、震災がら一月近くなる。幸い、熊本産のアサリは並ぶ量が減ったものの手に入らないほどではなく、熊本産の巨大トマトも無事に入手が出来ている。なんらボランティア出来るわけでなく心苦しくもあるが、せめて当分、せっせとクマモトパスタを頂くことしようと思う(2015,5,5)

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