06/16 長崎空港のソファー

昨日は、遠く長崎からお客様が見えた。Tさんは、やはり船に大変興味をお持ちの方で、このウェブをご覧になって何度かお電話もいただきTさんのご要望に応えさせていただいていたのだが、どんなに時代が移っても人間の縁というものは最後にはお目にかかるところに行き着くものだ。昨日は、埼玉に用事ができたとのことで羽田から埼玉に向かわれる前にお立ち寄り下さった。お電話でお話している時も大変好誼に厚い方とお見受けしていたし、わざわざ遠くからお起しになるのに、僕も手ぶらで帰しては申し訳ないと考えていたので、以前にも書いた客船のFootage(ビデオクリップ)コレクション、通しで再生すると5時間を越えるデータ、その他をお持ち帰りいただいた。喜んでいただいて何よりだったが、「長崎はお見えになったことはありますか?」と尋ねられて、随分昔の長崎空港での仕事を思い出した。

もう20年近くも前になる。家具の販売というのはカタログ商売みたいなところがあって、カタログを設計事務所やらデザイン事務所に丁寧にばらまくのが(丁寧にばらまくってのは変な言い方だが)大事なタネ蒔きとなる。それはそれで結構な手間ひまだが、その配ったカタログの裏に貼った名刺を見て電話がかかってきた。それこそ5年も6年も前にばら撒いたカタログからの電話だ。渋谷の商業施設を得意とするデザイン事務所だったのだが、長崎空港のインテリアリニューアルをやっているという。その事務所は現在の千歳空港のデザインも手がけたところで、電通をアタマに千歳でやった仕事の評価が高く、長崎からも声が掛かったのだそうだ。最初はとりとめの無い話だったのだが、ある日打ち合わせに行くとスケッチを見せられて「このベンチを作って欲しいのだが・・・」と来た。このデザインの担当者は実は相当な飛行機マニアで、空港のベンチだからといって、飛行機をイメージしたデザインだという。簡単に言葉で説明すれば、スチールで組んだベースをステンレス版で化粧してそこからステンレスの無垢、飛行機の翼の内部構造をイメージした意匠のカンチレバーを立ち上げて、アルミの無垢の背板を取り付ける。座面は飛行機の翼そのものをモチーフとしたもので、特別に染めた青い皮を貼る。実際の工事請け元は乃村工藝社、今だから言えるが、なんと一脚100万円である。製作は世界的な椅子のコレクターと知られる福岡の永井啓二さんにお願いしてとりまとめていただいた。さて、意匠や詳細の仕様は紆余曲折を経て纏まったのだが大問題が・・・今では輸入家具業界の雄として知られるインター・オフィスだが、当時はまだ発展途上もいいところ、職人さんにしてみればステンレスやらアルミ(背の無垢板は厚さ10ミリ、1800x600のアルマイト仕上げだ!)やら材料だけでとんでもない出費だ。これは肩代わりしなきゃならない。早い話、先にお金を渡さなきゃ作ることができないのだが会社にそんなお金は無い。乃村工藝社からは一ヶ月後、現金振込での支払いを呑んでもらったものの・・・ある晩、社長からお声がかかり長崎案件の受注祝いをしようと言う。寿司屋でごちそうになりながら、その先払いしなきゃならないお金のことを言い出せずに寿司も喉を通りが悪い。すっかりご機嫌の社長ではあったのだが、とうとう同席の上司が意を決して切り出す。社長の箸が止まった。カンカンガクガク・・・最後に「考えさせてくれ・・・」。結局は、今でもありがたく思っているが、先払いのお金を工面してくれて受注に漕ぎ着けた。実際の納入は最終便が飛んでから始発便の到着までの夜間に徹夜でやった。結局、長崎ではもっぱら空港で過ごした時間が多く(打ち合わせだって何だって空港の中、飛行機でついて空港で仕事をしてそのまま帰ってくるのだから)、空港しか知らないのだが、ひとつだけ、長崎空港の牡丹という中華屋さんのチャンポンは絶品である。かつて全国の空港グルメか何かでもトップ10に入っていた。Tさんがお越しになったことで昔話を思い出したが、僕にとっては複雑な思い出の長崎なのである。(2008,6,16)

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