40. ジャイロスタビライザー

客船コンテ・ディ・サヴォアのジャイロスタビライザー

イタリアンラインの客船、コンテ・ディ・サヴォアの一般配置図を眺めていると、かのジャイロスタビライザーの設置スペースがきちんと描かれていた。冬の北大西洋も乗客にとっては結構しんどい航海だったようである。ありえないこととわかりつつ、揺れない船というのはこれまたひとつの人類の夢だったりする。

現在の客船にはスタビライザーという羽がついている。大型客船ではまずビルジキールが採用された。両舷最下部に船の長手に沿って付けた長い突起物で、この抵抗で揺れを抑えようというものだ。続くフィンスタビライザーは水面下両舷に飛行機の翼のごとき長方形の羽を出し、この角度を変えて航空機の翼のごとく揚力浮力を得て左右の釣り合いをとろうというものだ。実は、この仕組みは1923年に日本の三菱造船が発明したものだったのだが、制御が上手くゆかず効果を確かめられなかったので、興味を持った英国の企業に特許を売ってしまった。現在ではコンピュータ制御によってコントロールできるので最も有効な揺れ止めとなっている。戦後になって船の揺れ止めとして普及することになるので、件の英国企業はたっぷりと特許料を得たことと思われる。ちなみに、第二次大戦中、米英の軍艦にはフィンスタビライザーが取り付けられて効果もあったそうだが、日本軍では上手に使えなかったらしい。

フィンスタビライザーのような立派な機械でなくとも、両舷船尾近くに三角形の羽(突起)をつけることもよくある。昔、竹芝−大島の東海汽船の船に乗って魚釣りに行っていた頃、ある時、カトレア丸(だったと思う。サルビア丸かも)がドック入りしてスタビライザーを付けて出てきた。揺れの軽減は実感できなかったが、妙に船内がうるさくなって辟易したことがある。まあ、うるさくなるほど水を切っていたわけだからやはり効果はあったのだろう。

米国のスペリーという会社は、元々、航空爆撃用の照準器を作って成長した会社だそうだが、1910年代には欧州に現地法人を構え、この現法も成功していた。イタリア国とスペリー社とにどれほど深い関係があったかは生憎資料が見当たらないが、何せスペリーが開発したジャイロスタビライザーがイタリアンラインの客船、コンテ・ディ・サヴォアに搭載されたことだけは事実だ。このジャイロスタビライザーというのは相当な大仕掛けな装置で、コンテ・ディ・サヴォアでは175トンもの鉄の独楽を3つも積み、これを波に応じて(揺れに応じて?)最大毎分910回転で回し、この慣性モーメントで船の揺れを止めるというものである。コンテ・ディ・サヴォアの就役前後の映像を見るとジャイロが回っている場面も少しだけ登場する。残念ながら効果のほどは疑問で揺れない船はやはり幻想に終わったようである。もっとも・・・ジャイロスタビライザーは研究が進んだわけではなく、フィンスタビライザーに一定の効果が認められ、運用コストが格段に安価ですむために廃れてしまったとも言われる。何せ、巨大な鉄の球を回すわけなので電気代もまた膨大なものだったらしい。

客船の古い一般配置図はなかなか宜しい。模型作りをしている方にとっては欠くべからずネタだろう。僕も一昨年に氷川丸の模型作りでは大いに活用させてもらった。しかし、例えば、ベルサイユ宮殿の建築図面(高名なのは立面図だが)や、フランクロイドライトの帝国ホテルなどは平面図を見ているだけでウットリするのと同様、船の一般配置図もまた使うのみではなく、眺めてもまた大いに風情のあるものである。(2014,11,5初稿、2015年加筆)

スコットランドの独立−サミュエル・キュナードの手紙【船と港のエッセイ】 CONTENT【船と港のエッセイ】 【船と港のエッセイ】