12. 客船史

客船史の書籍・参考書

僕は地道でアナクロな人間だから、このウェブサイトでもあまりシャレたプレゼンをすることが出来ない。ウェブ自体をお褒めいただくことも多く、今風のウェブマスターを颯爽とこなしているように勘違いされるが、実は一杯一杯でやっているだけだ。諸事、簡潔に要領良く書けば良いのだろうが、知らないことがあるのは許せないタチだし、僕は分裂症気味にひとつの事を掘り下げてしまうから、結果的にどうしても文章量も多くなる。元々、一枚の客船ポスターの画題や作者を調べるのに不合理なほど時間をかけているが、最近はいつもの要領に輪をかけて時間をかけている。時間のかけがいがあると言い換えてもいいだろう。

死ぬまで勉強とは良く言うが、じっくり取り組めば、小さな発見はいくらでもある。先日もニューヨークのモノクロ写真のコレクションで高名なベットマンアーカイヴの間違いを発見してしまった。写真を撮影した年代が間違って記録されているのだ。別に間違い探しやアラ探しをやってるわけではないのだが、こうして再度史実を掘り下げると、改めて良い手引き書だと感心するのが上掲の本だ。書籍の中身が、装丁や希少性ではなく内容だとすれば、特に定期航路時代の客船を知るなら入手の機会があれば手にとってみて損はない。5年程前、オーシャンノート開業の準備をしていた頃、特に大西洋定期航路客船に強く惹かれたものの、今も昔も日本にはその手の情報が乏しく、いきなり洋書を買い集めてみた。大した英語力もなしにマニアックな内容を読解するのは無謀であった。困ったところに「栄光のオーシャンライナー」が現れた。ムックという体裁を俗っぽいと敬遠する人もいるが、もしこれがハードカバーで英語併記だったら、海外ではベストセラーである。今では、調べごとのために様々な本を手にした結果からも、分かりやすさ、考察、史実の解釈、どれをとっても優れていると承知している。エディターの西村慶明さんは本職はイラストレーターだそうだが、交通史に造詣が深く、これまたソフトカバー、マニアの王道シリーズ(苦笑)から上梓されている「客船読本」も、カバーに「誰も教えてくれなかった客船のツボ」のコピー通り、なるほどと思わせる盲点が山盛りでウレシイ。このあたり、俗っぽいといえば俗っぽく、インテリ層には手にしづらいのも事実だろう。僕は定本なんていうものは、人それぞれ微妙に違って結構だと思うし、手の内をばらすようだがこの二冊、僕にとっての定本である。もう少し、書籍寄りに振れば、「豪華客船の文化史」が今のところ、和書で定期航路時代の客船を読むには最良の書籍となるだろう。著者の野間恒氏は、格を付けるのものではないが、2007年の暮に無くなったアメリカのフランク・O・ブレイナード氏、ハンブルグのアーノルド・クルダス氏、アメリカのビル・ミラー氏と並ぶ世界的な客船史研究家といって差し支えないだろう。野間氏は特に客船の写真のコレクションに秀でておられ、ビル・ミラー氏の著作のために写真を提供されているし、上記の研究家諸氏との親交もお持ちである。豪華客船の文化史の執筆にあたっては故ブイナード氏の助言も得たそうだから、内容はお墨付きといっても良い。

このあたりの3冊に加え、どちらも古い翻訳書だが「大西洋ブルーリボン史話」(トム・ヒューズ著)や「豪華客船スピード競争の物語」(デニス・グリフィス著)あたりを読めば・・・洋書を手にとってもチンプンカンプンになることはない。洋書は、文章が多いものは苦戦するものだが、上掲、ビル・ミラー氏の3部作「The First Great Ocean Liners 1897-1927」「The Great Luxury Liners 1927-1954」「Great Cruise Ships and Ocean Liners from 1954 to 1986」はペーパーバッグながら一通り時代を網羅しており海外の趣味人には必携の定本である。こうして、ある種考古学的な考察に取り組んでいたりするのだが、「世界の新鋭クルーズ客船」の著者でもある府川義辰さん、紙モノのコレクションでは日本ナンバーワンではないかと拝察するが、現在のコレクション整理にあたり僅かながらコレクションをお譲りいただいた。老眼に鞭打って穴の開くほど府川さんから譲っていただいた史料を眺めると・・・何とまあ、「栄光のオーシャンライナー」の中で実際に資料として掲載された1930年代当時の雑誌広告そのものだったりして・・・世間は狭いというけれど・・・(2009,1,29初稿、2015年加筆)

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