28. 氷川丸 2012夏

日本郵船客船氷川丸ガイドブック

今夏は次女が夏休みの宿題に、財団法人三笠保存会主催の「船の模型コンクール」への応募作品へ取り組んだ。横須賀の小学生対象に毎年行われているものだ。このところ我が家では横浜プチお出掛けが多く、行くたびに郵船博物館と氷川丸には必ず寄るのだが、折角氷川丸に何度も乗っているのだからこの模型を作ってしまおうということになった。アイデアは海人社のクルーズトラベラー創刊号に載っていた北原照久さんのコレクション、客船クイーンメリーの古いおもちゃである。デッキ一層ずつがデッキプランの描かれた厚紙で出来ていて、これを重ねるとクイーンメリーの形になるという面白いものだ。この氷川丸版を作っちゃおうということになった。

まさに渡りに船! 郵船博物館で求めた「氷川丸ガイドブック」の巻末には約1/750の一般配置図が掲載されており、全長20センチ余りは作るにしてもちょうど良い大きさである。デッキ一層分を平均しておおよそ2500mm前後と計算して、ホームセンターに駈けてゆくとちょうど3mm厚のバルサ板があるので購入。マストは串団子の串、スクリューはビールの空き缶、スクリューシャフトは廃品のプリンターの松葉バネ、舵板はボール紙、旗竿はギターの弦等々、ああでもないこうでもないとケンケンガクガクやりながら完成。なかなか・・・良い出来である。

一般配置図を老眼に鞭打って見る。これじゃあ情報が足りず、同じ「氷川丸ガイドブック」の中とじに掲載されている谷井健三さん作画のカッタウェイ図も見ながら氷川丸のプランをお勉強する良い機会になった。タイタニックの映画を見ててフツーの同年代の日本人にはピンと来ない点のひとつは船室の等級だと思う。氷川丸でも一等、二等、三等、それぞれのデッキエリアが明確に分かれているのは頭で理解していても配置図に落とし込むと、その境目は良くわからない。現在の氷川丸では二等部分は非公開だし、ギャレーの壁から三等アコモデーション(客室)への通路部分では二等と三等の境目があるはずだがやっぱり良く分からない。

ある史料で夏目漱石が明治33年にドイツ客船・プロイセンで欧州留学に向かった時の日記を読むと、公費留学の漱石は二等で、たまたま日本での知人が一等船客におり、知人の方から漱石を訪ねてきたというくだりがあった。そう、上等から下等へは出入り自由だがその逆はエスコートがないとダメなのだ。タイタニックでもローズがジャックに「あなたが出て行きなさい。ここは一等のプロムナードデッキなのだから・・・」といったような科白があるのだけど・・・とにかく、また近々氷川丸を訪ねるので、そのあたりじっくり見て見ようと思う。

こうして、氷川丸のお勉強ができるのも「氷川丸ガイドブック」のお陰だ。似たようなブックレットに日本財団(船の科学館)発行の「戦前日本の最優秀客船 新田丸」があるのだが、全7冊のブックレットのうち、この新田丸のものだけは持っていない。こういった安価な小冊子を馬鹿にしてしまいがちだけど、史料集めから作画、紙面デザインまで一冊の本を作るのと同じくらいの手間ヒマがかかっていると想像できる。図版があるから文字だけよりも大変な部分もあるかもしれない。パンフレット、プログラム、図録、小冊子・・・果ては雑誌・ムック、馬鹿にすることなかれ、文字だけ読めば散文の集まりかもしれないが凄い情報量である(2012,9,8初稿、2015年加筆)

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